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 角都は最近タバコを嗜んでいるようだ。 
 とは言っても特に無意味に健康を害するために闇雲に吸っているわけではないらしい。毎回決まって、アジトに帰還し初めて一服するのだ。

 

 飛段が知る限りの喫煙者は一服する度「ああ、やっとありつけた」という顔をしたものだが――角都は特にそんな様子はなく、表情筋をぴくりとも動かさずに紙箱から一本10cmといったところのそれを取り出し、先端に火を点け、美味そうでも不味そうでもなくただ機械的に口に運んでは煙を吐いていた。 

 

 それにしても、と飛段は不思議に思う。 
 角都は強いて嫌煙家というわけでもないが煙草を好む人種ではない。 
 奴は倹約家だ。煙草は中毒性がある上、値段は高沸するばかりの消耗品だ。吸っている者に目くじらを立てる様な奴ではなかったが、買う者の心が理解できん、と言いたげな目で煙草屋の前に陳列された値札を横目で見ていたものだった。 

 

「…タバコは勿体無いっつってたよな、お前」 
「あ?」 
「匂いが染み付くし、無駄な浪費だってよ」 
「違いない。生産者はぼろい商売だろうな。」 

 

 ――今、まさに、煙草を吸っているヤツが、何言ってんだ。 
 角都が矛盾したことを言うのは珍しい。こんな仏頂面で神経質な男でも滑稽なことを言えるもんだ、と可笑しくなって飛段はいつもの様にゲハハ、と特徴的な笑い声を上げた。 

 

 角都の目尻がぴくり、と動く。虫の居所が悪ければ肩と肩がぶつかっただけで相手を殺す男だ。笑ったことが気に触ったのだろうか。 
 ――心臓を一突きされるだろうな、好戦的な飛段は口の端を愉快そうに歪め、角都からの攻撃を待ったがその一閃は訪れなかった。 
 角都はただ機械的に紫煙を吐き、面倒くさそうに飛段の姿をその目に移した。 

 

「…モノは、金額に見合う価値があれば『無駄な浪費』にはならん。 金額分かそれ以上、気分が紛れるなら良い買い物だろう。アクセサリー感覚で吸っている奴もいるが、そいつが金を払ってよかったと思えば良い。 要は、消費者がそいつなりに得をしたと思えば需要と供給は成り立っている。」 

 

 角都という男は、時折飛段が考えることに匙を投げてしまう物言いをする。ややこしくて仕方ねぇ、と飛段は今回も考えることを中断し、煩わしそうに頭を掻いた。


「あ~…何だ、つまり角都は今煙草吸って機嫌いいってか」 
「そういうことだ。」 

 

 そうか。良く分かんねーけど楽しいことは良いことだな。俺も楽しいことは好きだからな。と飛段がひとりで納得していると、角都はフィルターをとんっと叩き灰を下に落として早々に自分の部屋に帰ってしまった。 
 ――フィルターはまだ長く残っていたが、室内で嗜むつもりだろうか。 
 …先ほど早々にとは言ったが、角都が帰還後飛段と会話することは、無い。普段は早々にも糞もないのだ。飛段をまるでそこに存在しない様に扱い茶々すら丸無視し、きびきびと歩速の早い足を止めることなく部屋に帰ってしまう。 

 

 ――そうだ。煙草を嗜んでからだ。 
 奴は煙草を吸い始めてから、妙に上機嫌なのだ。あまり部下を殺すこともなくなった、気もする。 
 良い事だろう。角都の方がどうかは知らないが、俺は奴との会話はわりと嫌いじゃないのだ。 

 

 あんなに馬鹿みてぇに頭の硬ぇ人間でも上機嫌になれるんだ。煙草の力ってすげぇな。そんなことを思いながら飛段も己に宛てがわれた部屋へと歩を進めた。

 

*

 

 煙草の匂いが腔内いっぱいに広がる。 
 角都はこの匂いは好きでも嫌いでもなかった。大抵煙草を吸っている奴は「煙草を吸うと気分がよくなる」というが、角都は特にそんな気分にも浸らなかった。――そう、直接的には。 

 

 タール値が高いと言われている煙草の煙を吐き出した後、自分の部屋のドアノブを捻る。 
 彼の部屋は無駄な家具のない、ただ仮眠を取る場所とも言えるであろう殺風景な部屋だ。ただ一つの彼の「所持物」をのぞいて。 

 

 部屋の奥まった場所に配置されている大きなベッドの、更にその端に縮こまっている丸い物体がある。 
 一見するとそれが何であるか分からないが、よく見るとそれは毛布を頭からつま先にかけ被り体を体育座りに折りたたんでいる――少女だ。 
 足の側であろうシーツの端からはベッドからはみ出ている程長い鎖が蛇のようにシーツの上をうねっていて、その逆側のシーツの端からは赤いとも言える、桃色とも言えるような色の髪が出ていた。 

 角都はいつものようにきびきびとした歩き方ではなく、タバコをふかしゆっくりとその塊に近づ

く。ベッドの脇で立ち止まり、うねる鎖を一瞥し、仏頂面の角都の顔は「歪んだ」。 
 笑っているようにも見えたが、「笑う」という表情では生ぬるいものがあった。普段マスクで覆われている口は煙草を吸う為に解放されており、彼の裂けた口の縫い目からは煙が漏れている。 
 見るものが見れば、まるで悪魔のようだと恐れおののくであろう。 

 

 彼は煙を大きく吐きながら自分の部屋に戻るのが大好きなのだ。いや、最近好きになった行動と言えるだろう。 
 煙草を嗜むようになったのは、この少女が来てからのことなのだ。 

 

 少女は忍者だった。しかも平均的に見れば腕の立つ部類の。幻術使いとしては類い稀な才能のある忍者かもしれない。
 少女は木の葉の三忍と謳われ――暁の裏切り者である、大蛇丸の直属の部下である。角都や暁にとっては後者が重要であった。
 風の噂では、大蛇丸は現在三代目火影の術により酷く弱っている。それでなくても暁には所在がばれないように慎重に動いていたが、弱っているとなれば余計に慎重にもなるというもの。
 対して暁は裏切り者が弱っているという情報を掴み、さっくり殺すなら今だ、と尾獣回収の片手間に大蛇丸の所在を探っていた。

 

 そこへ、この少女は現れた。今は生まれたままの姿ではあるが、しめ縄に特徴的な装束。
 なんて分かりやすい「目印」だ、と思ったものだ。おかげで一目で飼い主を見抜く事ができてしまった。

 

 半殺しにして生け捕ることは容易かったが、何も少女が弱いわけではない。この男――角都の力が、圧倒的に勝っていただけのことだ。
 あっというまに勝敗はつき、やり合いにしても熱の上がらなかった角都はその消化不燃焼を発散するべく少女の肢体をその場で犯した。

 

 服を破くように剥ぎ取った時は妙に暴れるし(それでも角都の力の前では無抵抗に等しかったが、何発か気絶しない程度に殴っても反抗的な目を崩すことがなかったのには驚いた。)
 指を蜜壷に入れた時の喚きようには違和感をおぼえた。が、角都が怒張した己を後ろから少女に突き入れた時、全てにおいて納得した。少女は処女だったのだ。
 膜を破った時は、戦闘時殴っても吠えなかった口が甲高い声で痛い、痛いと喚き、それまで気丈な色を見せていた瞳は一瞬にして絶望の色へと変化した。
 角都の血が集まったそれは、年齢に衰えず大きい部類のものである。XLサイズのゴムでも稀に破れてしまうこともあった程だ。
 角都は少女と自分の体格からして達することはできないだろうと考えていた。おまけに処女なら、尚更。事実、初めて異物を入れた膣は角都のものを半分も受け入れることができなかったが、角都はうねるように絡みつく膣の具合の良さに眉をしかめた。

 

 今までは後始末を考え、情婦か、あるいは捕虜のくノ一を使ってきたがどの女も処女はとうに消失していた。
 それに普段こんなガキは抱かない。今回はたまたま行き場を無くした体力を発散してしまおうと思ったのだ。

 

 ――この女は当たりだ。
 そんなことを考えながら未発達の女の腰に年甲斐もなく何度も激しく腰を打ちつけ、奥をつく度にぱんぱん、と肉がぶつかりあう水気を帯びた音が静かな森に淫猥に響いた。
 その動きに合わせ少女の腰は人形の様にがくがくと動いていた。今まで下から聞こえていた悲鳴が聞こえなくなったので、おそらくは既に気絶しているようだったが角都はそんなことは御構い無しに小さな子宮を奥まで突き上げた直後、小さく吐息のようなくぐもった声をあげて射精した。
 引き抜いたものは一回程の射精では起立したままだった。…このまま水でもかけて起こしてから又膣にぶち込んでもいいが、元より想定外に戦闘が終わっただけで一箇所に長居する気は無かっただろう、と考えを戻す。
 気絶している女の股を借り適当に素股をし、二回目は少女の腹上に射精する。
 角都は久々の気だるい射精感に浸りながら、萎えた自身を仕舞った後その辺に投げ捨てたローブを適当に少女に被せ、そのまま肩に引っ掛けアジトに戻った。

 

*

 

 角都は少女の姿を確認するとゆっくりとした足取りで向かいのソファにどっかりと座り、手に持った煙草を一吸いした。

 

 飛段と居た時や廊下を歩いていた時の様に、機械的に吸うのではなく、煙草の煙を吐き出すたびにしゅう、と呼吸音と共に息を吐いている。
 ――その音を聞く度、少女の体が痙攣したようにビクッと動く。

 

 見ると少女の体は切り傷や痣のような痕こそないものの、斑点のような火傷痕が脚や背中に散らばっている。
 何度か煙草を吸ったあと、角都は再度ベッドの側に近づき、手近な鎖を引っ張った。
 ジャラっと金属と金属が擦れ合い、鎖に引っ張られてシーツから脚が露出する。余談だが、角都の部屋に灰皿等の煙草の火を止めるものは置いてない。
 角都は最近まで喫煙者では無かったし、何よりそれを買う必要はないと考えていたからだ。閑話休題。
 角都はその脚にためらいもなく――煙草を押し付けた。

 

「っっあああああああああああああああっっ!!!!」

 

 摂氏700度以上のその熱から逃れようとする脚を動く前から跨いで固定し、のたうち回ろうと体をくねらせ痛みと熱さにあえぐ少女の脚に、尚も煙草の先端をぐりぐりと押し付けるその角都の目は、笑っていた。
 煙草の灰がぼろぼろと少女の脚からシーツへとこぼれ落ちる。

 

「クソ野郎…っ!!死ね、死ねっ……!!」
「飼い主におかえりも無いとはとんだクソ女だ」

 

 角都はこの叫び声が好きだった。
 角都はこの匂いは好きでも嫌いでもなかった。大抵煙草を吸っている奴は「煙草を吸うと気分がよくなる」というが、角都は特にそんな気分にも浸らなかった。――そう、直接的には。 

 

 廊下で煙を吐くと、この部屋から音が聞こえる。
 匂いを察知したこの少女が怯え、シーツへ逃げ込む音だ。
 ――逃げられないことは一番良く分かっているはずなのに、愚かなことだ。

 

 わざとらしく煙草の煙を吐いていると、少女の体は反射的に反応する。
 ――自分の身が焼かれ、犯されることを連想するのだろう。現に煙草の煙を吐くことは今からお前を犯すという合図のような物だった。

 

 よく熱された煙草の先端を押し付けると、少女はのけぞって痛みを訴える。
 そして決まって、地獄に引きずり込んでやると言わんばかりの眼光でこちらを睨んでくる。
 ――俺に手も足も出ないガキが、愚かなことだ。

 

 角都が後ろからピストンを繰り返しながら少女の背中に煙草を押し付けると、少女の膣は絞るように角都のそれを締め付けてくる。
 それまで必死に堪え漏れないようにしている声が、その時だけ溢れるのだ。


 角都は自分が少女の体につけた散らばる火傷痕を見るのが好きだった。どこかの人形オタクと粘土遊びのガキではないが、いっそ芸術といっても差し支えないと思っていた。
 そんなことを考えながら腰を打ち付けていると、ちょうど煙草の火が少女の背中の上でじゅっと音を立て消える。


「――ひぃ”ッ、あ”ぐッ…!ン…っ!」

 そんなくぐもった呻き声が自分の下から聞こえてきた。
 抜き差しする度に、つながった部分から血と愛液と精液の混じったものがこぼれ落ちる。散々犯しつくされた非処女のくせに、どこもかしこもまるで処女だな、と角都は可笑しく感じてくくくっと喉の奥で嗤った。

 

 そろそろ自分も絶頂に近いらしい。
 散々慣らしてもなお狭い少女の中を一層激しく責め立て、ぶるり、と体を震わせた後、避妊もしていないその子宮の中に射精した。

 

「殺してやる…いつか絶対喉笛を噛みちぎってやる…!」

 

 荒い呼吸に混じって、うわ言の様にそう繰り返す少女の目は死んではない。

「やってみろ。俺を殺せると思っているならな。――『多由也』。」

 

 角都は煙草の染み付いた舌の上で唯一少女の口から自白された『情報』を唱え、呪詛を吐くその口に乱暴に噛み付いた。


*

 

 ――相方は、相も変わらず特に美味くも無さ気に煙草を吸っている。
 飛段は昨日の様に己の隣で一服している角都をちら、と横目で見、そういえば何時からこいつは煙草を嗜むようになったか――と思案した。

 

 ああ、そうだ。角都が良い灰皿を買ったと言っていた日があった。
 珍しく上機嫌に笑っていた(見るものによっては魔王の様におそろしい歪んだ顔、とも言われているらしい)ものだから、飛段のあってないような脳の中でも鮮明に覚えていたのだ。

 

「そういや思い出したんだけどよ」
「何だ」
「お前灰皿のために煙草を吸ってんのか?」
「…おまえ」

 

 角都の目が見開き、飛段の方を向く。
 初めはまじまじと飛段の方を見ていたが、飛段の訝しげな顔を見てはぁ、とため息をついた後、続けて返した。

 

「まぁ、そうなるな。リーダーからのお下がりでな」
「ん?リーダーも煙草吸うのか?」
「…いや、そうじゃな―…まぁ、役目を果たしたから使うか、と聞いてきてな。…ああ、割ろうとしたが、結局何処も割れなかったようでな。」
「……?ん?又難しいこといってんな…。よくわかんねぇけど…つまりリーダーから貰った灰皿がイイもんだから煙草吸ってんだな?」
「違いない。」

 

 角都の目線が飛段から外れ、煙草の方へと注がれる。
 あ、初めてちょっと美味そうに吸ってるかも知れねぇ。と飛段は珍しいものを見る目でまじまじとそれを見つめ、考える。

 

「あー、お前の機嫌すら良くするモンなら、俺も吸ってみっかなァ。そしたら灰皿、俺にも貸せよ。」

 

 角都の持つ煙草に視線を注ぎ、ひやかしでもなくしみじみとした声色で呟く飛段を一瞥し、角都は珍しく相方のぼやきに返事をした。

 

「やめておけ。あれは中毒になるぞ。やるもんじゃない。」

 

 ああ、そうかもなァ、俺歯止め効かねぇからなァ。しかもコイツと俺じゃ、物持ちの良さが違ぇか。
 兎にも角にも相方は今日も、灰皿のお陰で上機嫌らしい。
 良いことだ、と飛段は登る紫煙をぼんやり仰ぎ見た。

 

 

 

☟蛇足

 

 朝起きるとベッドサイドに1000両札が3枚、それからその上にアフターピルの瓶が置かれていた。昨夜の「報酬」とでも言うのだろうか、これが「自分の価値」とでも言うのだろうか。今まで堪えていた嗚咽が溢れて止まらなかった。ウチは終ぞその紙幣と薬に手をつける事は無かった。

 

*

 「…最近、良い灰皿が手に入ったんだって?」

 くぐもった声の方向に振り向けば、異形の骨格を被った同僚と目がかち合った。

「お前が煙草たぁ面白ぇじゃねぇか」

「俺が何を嗜もうと、俺の勝手だろう」

「クク…怒んなよ、別に咎めようってンじゃねぇんだ。ちょいと忠告をしにな」

 

 忠告という目の前の異形に似つかわしい響きに眉を顰めると、異形は続けて言葉を発する。

「物は大切にしねぇと案外あっさり壊れるモンだ。頑丈な灰皿でもすぐ壊れちまう」

 その殊勝な台詞に一寸思考が止まる。それは奴の言葉が余りに殊勝だっただけではなく、

「…酷く扱っている心算は無い。」

 

 あの灰皿で娯楽を嗜んでいる自覚は有れども、酷く扱っている気は無かった。あれは尋問も済んだ身。一応は至って稚拙で無い寝床も食事も提供しているのだ。然しーー

「大切にしてるってワケでも無ぇだろ」

「ああ…」

 コイツの言う通り、大切にしてる自覚も無かった。必要が無いと言ってしまえば其れ迄だが、あれに不快感も嫌悪も感じていない。確かに、少しは気遣ってやっても良いのかも知れない。

「だが禁煙はできんな」

「煙草止めろって話じゃねぇ。最初に言ったろ?一寸大事にしてやるだけで寿命は延びるって話だ」

「殊勝だな。お前、本当にサソリか?」

 異形の無機質な眼球に訝しげな俺の顔が映った。

「ああ。俺ァ物には優しいんでな」

 

 深夜4時。灰皿は昨夜舌に吸殻を押し当てたきり気絶した侭だ。『物は大切にしねぇと案外あっさり壊れちまう。』『一寸大事にしてやるだけで寿命は延びる。』昨日の異形の台詞が脳裏を過ぎる。俺は紫煙を深く吐いた後、財布から1000両札を3枚取り出し、ベッドサイドに置いた。
 

 

 

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移転に伴い修正(1・31)

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