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■短いのをまとめています。グロなんかも構わず放り込んでいます。カップリング雑多。

 

白多由/

「多由也さん、ちょっと待って下さい。離れてください。」

 純粋に涼けさを求め、僕の背中に擦り寄る彼女を制した。僕はお国柄なのか、それともこの血界限界の所為か、低体温だ。

「ウチに指図すんじゃねぇよ女男。」

「…そうですか、僕は多由也さんにとっては女男なんですね。」

 たしかに僕の顔は中性的な顔なことは分かるが、やはり意中の人からはそう思われたくないのが男心だろう。

「な、なんだよ…」

 くるりと振り返り、彼女の肩をがっちり掴んで真っ直ぐ見据える。彼女の目線とぶつかったが、直視できない。

「だ、だからなんだよ…」

「…はぁ、こんなんだから、僕は男女なんですかねぇ…」

 ふぅ、とため息をついて力を抜いた僕の腕の中に、彼女はすかさず飛びついた。

「ウチは暑いんだから、黙ってその低体温分けろって。減るもんねぇだろ?」

「いえ・・・色々減るんですけどね・・・・」

 そうぼやいて彼女を抱きしめた。

 

(血が、茹だりそうなんですが・・・)

 

 

 

サソ多由(r15)/

 下睫毛にたくさん溜まった涙が似合っていた。

 いつも鋭くぎらぎら光る瞳が頼りなさげに潤んでいるのが滑稽だった。

 

「なァ多由也よォ、俺はお前のこンな顔が見たかった訳じゃ無ぇが」

 

 手にもっているのこぎりを軽く揺らすだけで多由也の顔はひきつり体はびくつく。真っ先にでも『作業台』から逃げ出したいのが本心なのだろう。

 が、残念ながら叶わねえ事だろうなぁ。と、コイツから切断した両脚をぼんやり眺めて――自分が犯した所業にも関わらず他人事のように――気の毒に、と感じた。

俺みてえな奴に―赤砂のサソリに目をつけられた時がコイツの運の尽きだったのだ。

 弱い女にゃ興味は無ぇ。こいつはそこそこ強ぇヤツだ。が、笛が無けりゃただの雌だった。

元々術の相性が悪かったのはあるだろうが、笛をへし折った後は容易かった。

 嫌がるコイツを作業台に貼り付けて、両脚をブッた斬って、中身抜きの為にモツ引きずり出して血抜きと血液凝固防止の為に水で中身軽くすすいで――モルヒネ投与?麻酔だと?バカ言え、そんな無粋なモンしねぇに決まってんじゃねぇか。

 せめて殺してから?バカ言うな。

 俺が、俺だけがコイツを最後まで見届けてやるんだ。

 醜い悲鳴も痛みに歪んだ顔も、流れ出た排泄物も全部全部見てやって、死んだあともずっと俺が愛してやるんだ。

 どうだ、最高のラブストーリーじゃねえか。

 弱い女にゃ興味は無ぇ。コイツは笛が無けりゃただの雌だ。ただ、―――

 ぴしゃっと頬に生ぬるいものが飛んだ感触がした。…血のまじった唾。(というより唾のまじった血というべきだ)

 オイオイオイ、

 今にも壊れそうな目ぇして何やってんだコイツ、分かってんのか?

 

「な、に、楽し、そ、な顔して、んだ…は、クソバカ…っ!」

 煩ぇよ、虫の息で啖呵切ってるバカはどっちだ

「死ね、ど変態」

「…ハッ」

 いつまでもこの俺を惚れさせてくれる女だから堪んねえってモンだ。

 

 

 

サソ多由/

「オイ、お前…こりゃ嫌がらせか。」「ん?」思いっきり不機嫌そうに顔を歪めたが、相手には意図が伝わってないらしい。目の前にある、食欲がそそられるであろう、色とりどりの食事。しかし、今はこの体では食うことすら叶わない。「俺は傀儡だぜ…飯なんか食えっかよ」至極最もなことを言うと、相手は狐につままれたような顔をして、「んなこと、知ってる。」とのたまった。「でも、サソリと食う飯は旨い。」にこりと笑う多由也。…怒れるわけがねぇだろ、バカが。

 

 

 

我愛多由/

「今なら・・・寝てるのか?」

 こそこそと相手に気づかれないように近づく。

「・・・」

 あと3センチ、あと2セン、

「んっ!?」

 いきなり地面の砂が巻きついて、0距離になった。

「な、ななっ、!?」

 驚いて顔を離すと、今まで寝ていた奴は、

 まるで今までも起きていたかのように、目を開かせていた。

「・・・良い事を教えてやろう、多由也。」

「な、なんだよ!」

 

「三尾に乗っ取られた俺は寝ない。」

 

 

 

イタ多由/

「多由也、一寸善いか」「近場で綺麗な髪飾りを見つけたんだ。俺には無縁だから、君にあげよう。」「遠出した時の、或る國の民族衣装だ。艶やかだろう?お前によく似合っている。」「このチョーカーのサイズは・・・よし、ピッタリだな。」「え、・・・いらねぇ。・・・・・似合わない。」「そんなことは無い。お前に似合うから買ったのだから、受け取ってくれないか。」そうやって増えたプレゼントの山、山、やま。もちろん、ウチが身につけるわけでもなく、すっかり箪笥の肥しとなってしまっている。「・・・・・・・・・・・・勿体無いし、一回ぐらいは・・・・善いか。」綺麗な装飾を身に付け、愛らしい衣類に体を通す。こんな子綺麗な物には中々どうして、慣れはしない。「多由也、失礼する。」がちゃりと開いた扉の前に、これらの送り主がいた。「・・・・っ!」「・・・・・ああ、」一瞬驚いたような顔をして、その後に奴はこう言ったのだ!「やはり、お前の美しい容姿によく映える。態々買いに行った甲斐もあるというものだな」(嗚呼、何て質の悪いスケコマシだ!)

 

 

 

サイ多由(多由也非処女表現)/

「ねえ多由也、ウソはいけないですよねえ、ウソは。」

 僕がそう言う(もちろん顔に笑をたたえたままである。)と、彼女の顔は歪んだ。

「別に嘘を言ってるつもりはない」

「するんですよね、穢い雄豚のくっさい臭いがね。」

 彼女からする、臭い。

 ああ、これはまさしく××××だろう。自分のではない、他の誰かの。

「・・・・どうだっていいだろ」

「ええ、そうですね。別に君が誰とどうしようと僕に利害もなにもない。尤もです。」

 怯えたような目をして、こちらを睨む彼女の意見に賛成する。

 成程、たしかにどうでもいい。心底どうでもいい。

(嗚呼でも但し)

「但し、そんな君を見ていると心底いらいらするよ。ねえ多由也、君は、いつになったら、僕だけのモノになってくれるんですか。」

 

 

角多由/

 『軽い』怪我をした。肋骨が3本持ってかれた。自分にとっても、況して忍びにとっては、それは取るに足らない怪我だ。それだけだ。それだけなのだ。

 お前は金を随一に大切にする男だろう。分かっているさ。理解ってるから大丈夫だ。そういう男だ。そういう男だったろう、

「多由也!!」

 病室の扉が勢い良く開けられ、爆発音と錯覚するほどの大きな音が耳を劈く。

「角都」「大丈夫か、怪我をしたと聞いて急いで来たんだぞ!」「任務は」「飛段に丸投げしてきた」「そんなに勢い良く開けたらドア、弁償だぞ」「そんな事、気にしてられると思うなよ。其れ撚り痛くは無いのか」「あ、ああ。まぁ、平気だ」

 角都は、唖然としているウチの無事を確認し、ふぅ、と一息ため息を付いた後、(冗談かと思ったのは内緒だが)震える手で、確かめるようにウチの顔をなぞった。

「元気な様子で、安心した」

 その表情は金を随一に大切にする男とは思えないほど慈愛に満ちていて、少しでも勘違いをしてしまいそうな自分を必死で押し殺した。

(やめてくれ。勘違いをしてしまうから。分かっている、つもりなのに。)

 

カカ多由/

「―――ん、」

 もぞもぞと云う布地と布地の擦れる音と、擽ったさに思わず目が覚めた。否、目が覚めたのではない。そこまではまだ、二度寝を試みる怠惰感や余裕がある位には寝ぼけ眼だった。……異変に気づかなければの話だ。…………異変が無ければの話だ。

「…おい、何してやがる」

「いや、何って、ナニを、ね?」

「……は?」

「……………夜這いってヤツ?」

 被さった布団を捲ると悪戯がばれた子供のような面と、胡散臭い笑みを足して二で割ったような顔がウチの両脚の間から覗いた。

「………ざけんのも大概にしろ…ウチはねみぃんだよ、このくそやろー………」

「いやいや、そんなこといわれてもホラ、こう、男はつい行きなりムラーっときちゃう時があるのよ。不可抗力なのコレは。」

 うんうん、と勝手に自分で自分の言葉に納得しているこの男はどうしてやろう。時計の短針は三時を指していて、ウチもすっかり目が覚めてしまった。……どうしてくれるんだこいつは。

「はー……今回も大人しく病院で寝てればよかったのに……」

「あー…そういうこと言っちゃうの?任務でくたくたになって帰ってきた旦那様にそゆこと言っちゃう?」

「誰が旦那様だ誰が」

 嗅ぎ慣れない臭いに顔をしかめて相手に相手を注視すれば、ほんのりと頬が赤い。…………さけくさい、飲んだ帰りだな、コレ。

「つらーーい任務の後に限界まで飲みに付き合わされて疲れて帰ってきたのに可愛いお嫁さんが先にいい気持ちで寝ちゃってて超がっくりしちゃった旦那様を癒してちょうだい」

「…………疲れてるなら寝ろよ」

「多由也が良い」

「おいオッサン」

「多由也じゃなきゃ嫌。可哀想なおじさんを慰めてってば……」

 酔った勢いかも知れない、が。カカシが弱音を吐いて甘えてくることなんて滅多になかった。恐らく、年齢、性別、互いの立場。コイツはアウトローに見えて何時だって様々なものに注意を払っていた。どちらかと言えばいつだって頼って慰められていたのはウチの方だ。…恩返しがしたいからかもしれない。頼られる優越感かもしれない。赤い顔を引き寄せて吸い付くだけの口づけをすれば、ちゅっ、という軽い音がした。

「五分で酒落としてこい。続きは、……起きて、待ってやる、から。」

 すっかり覚めてしまった頭で今更二度寝は出来ない。

(嘘だ。そんなの言い訳でしかない。)

(………独りで寝るのが寂しくなってしまっただなんて。)

 ああ、恩返しでも何でもない。これもウチの欲だ。我が儘だ。

「……ホント貞淑な妻ね。真剣に、俺達良い夫婦になれると思わない?」

 男は上機嫌に微笑み、ねぇ冴えちゃった、と言うと再び唇を重ねた。

 

 

 

カカ多由/
「多由也、裏切るっていうことについて、どう思う?」
 突然の質問に思わず発言者の方へ目を向けると、案の定、『イチャイチャバイオレンス』という、珍妙な題名の掲げられた本を読み、片手は頬杖をついている。横目でもこちらの方を見てはいない。――この部屋の主、はたけカカシにとっては『そこの醤油取って』位の軽い発言なのだろう、と彼の居候であり『元』音の忍――多由也は思った。
「今読んでるところが丁度そんな修羅場でね、主人公が浮気しちゃって、恋人に心中を迫られちゃってるのよ。」
「相変わらずソレ嫌なストーリーだな…。本の中くらいもっと平穏で理想的な筋書きにすれば良いだろ……。」
「ん?キミって案外ロマンチスト?へー、意外。」
「阿呆抜かせ!そんな嫌なストーリー読んでる手前も大概悪趣味だよこのゲスチン!」
 多由也持前の口汚い暴言を浴び、カカシはようやっと本を置いて、多由也に人当たりのいい…正直胡散臭い笑みを浮かべた。
「良かった、君がこの筋書きを悪趣味って言ってくれるようなロマンチストで。」
「だから、ロマンチストなんかじゃ…」
「ま!もしも君が裏切ることに肯定的だったら、首でも絞めて殺しちゃってたかも」
 じわ、と自分の背中が冷えたのを感じた。さっきまで喧嘩腰だった少女は、彼から一瞬出た殺気に、無意識的に思わず後ずさる。
「しな、い、裏切ら、な、い。」
「ん、そう?それはそれは、」
 カカシは先刻と打って変わって別人のように、暖かな雰囲気を醸す。分かってるし、そんな震えられたらセンセー傷ついちゃうナー、と笑って軽口を叩くが、多由也は硬直した体を解こうとしない。否、解くことができない。
「ざーんねん。」

(君と無理心中も、中々悪くないって思ったんだけどねぇ)

 

 

 

白多由/
 僕は、彼女は可愛い人だと思うんです。再不斬さんは『いけすかねェ餓鬼だ』とか仰っていましたが、僕は到底そう思えないのです。非っ常に不本意ながら、よく可愛いと形容される僕とは又違った魅力をお持ちです。そうそう、あんなに気丈な方ですが、照れるととてもお可愛いらしいんですよ?あの方の赤髪によく映えているんです。貴方も彼女をもっとよく知り、好感を持つべきです。
「・・・・わーったよ・・・。お前があの餓鬼に執心だってのァな・・・。」
「ようやく多由也さんをご理解下さいましたか?再不斬さん!」
「このやり取り何回目だっつうんだよ、オイ。オレは餓鬼に興味無ぇっつってんだろうが!」
 軽くでこピンされる。
「興味なくても、彼女を批判されることが辛いだけですよ。どうせなら、好きになって貰おうかと思いまして。」
「大体オレが『確かにアイツは可愛いな』っつったらどうすんだよ?」
「・・・お好きなんですか?」
「・・・・・もしもだよ、もしも。マジになんじゃねぇよ・・・。」
 再不斬さんの眉間が動いた。さっきの僕の声のトーンが思った以上に冷えた声色だったことに驚いているのか。僕も自分の声が自分のものでないようで、驚いた。
「殺すという発想は無いです。貴方は僕の全てですから。・・・そうですね、お恨みはするかもしません。いえ、もちろんそれでも貴方をお慕いする心持ではいます。しかし、同時にお恨みもうしあげます。彼女も又、僕の全てなのです。」
 にこり。笑顔を浮かべると、再不斬さんは固まった。時計を見やると、短針は12時を指し示している。・・・ああ、もうすぐ彼女が来ますね。もてなしの用意をしなければ。

 

 

 

サソ多由/

 蠍という動物は、非常に臆病だと聞いたことがある。

「オイ、腹減った。飯はねーのかよ。」

 だとしたら、ウチの部屋でどっかりとソファのど真ん中を陣取る、このふてぶてしい男は改名した方が最善だといえるだろう。たとえ毒を含む節足動物であれ、コイツと同じなんて可愛そうだ。
 普段コイツは自分の作品を被っているが、ウチの前ではそれを脱ぐ。外見はどこをどう見ようと美青年だろうが…やはり立ち振る舞いはオッサンのそれだ。

「こンの根暗ジジィ・・・。ウチは家政婦でも手前のばーさんでも無ぇんだから、他あたれよ。」
「はっ、爺にんな硬ぇこと、言うんじゃねえよ。寂しくて死んじまうぞコラ。」
「都合いいときに爺になるんじゃねぇよ!勝手に死・・・・・・」

 笛の楽譜から目線をはずしてソファに向かって睨みつけると、予想以上にサソリの顔が近かった。

「うわっ!?」

 第一波。予想外の状態を前に喉の奥でひゅっ、と音が鳴った。
 不意を突かれる事は忍失格だが、この爺がS級犯罪者よろしく、気配を完全に消していたのが悪い。或いは、自分は案外この爺に心を許していると言うことかもしれない。
 第二波、この爺がウチを腰に手を伸ばしてきやがった。クソ、声出した。いい歳こいてガキに手を出して楽しいのか、人形フェチ。
 腰にある手は、下腹部をゆるりとなぞる、と予想して、ぎゅっと硬く目をつぶった。が、特有のぞくぞくする感覚は無く、寧ろ想像してたより強い衝撃が走る。衝撃と言うか、圧迫感という表現が正しいのだろう。
 瞑った目をそろっと開けてみると、サソリはウチの腰に巻きついている。ちょっと捻くれた言い方だろうか。いつものように邪気は感じられず、両腕でウチの腰を抱きしめているのだ。

「ちょっ・・・重いから外れろって、」
「だから、爺に硬ぇこと、言うんじゃねぇよ。」

「飯は要らねぇ。俺は食いもんなんて要らねぇ。食えないんだ。自分で食えなくしたんだ。」
「自分が人形になれば――と一緒になれる気がして」
「無理だったけどな 長いこと人形やってるけどこんなに人間らしいし」

 サソリは猛毒を持つ節足動物。そして、臆病な動物である、とも書かれてあった。臆病ゆえに毒を持ったのだろうか。
 やはり改名したほうがいいのかもしれない、と男の吐露を聞きながら思う。コイツには、こんなさみしい名前が悲しいほど似合っていた。

 

 

 

イタ多由/

「珍しいな、お前が団子を食わないなんて。」
 無愛想な顔の少女が、団子を頬張って俺に話しかける。か細い喉が、異物を体内へ流し込もうと、何度も何度も波をうっていたのが印象的だった。
「食欲がない。」
「何言ってんだ雀の食事程食いやしねぇ奴が!!」
 からからと、笑う。その度に彼女のちいさな肩が上下した。

「蜉蝣。」
「あ?蜉蝣?」

 少女の団子の皿に、一匹の羽虫が止まっていた。俺の声に釣られて、少女も羽虫に目をむく。
「細っこい虫だな、善く、まぁ、生きていられることだ。」
「俺もそう思うよ。…ああ、こんな話を知っているか、多由也。」
 羽虫から少女に目を合わせると、不思議そうに目を合わせられる。別に、だいそれた話でもする訳ではないのだが。

「蜉蝣の腹には、米粒ほどの物も入らないんだ。」
「じゃあ何を食ってるんだよ、」
「何も食わない。、奴らは『食いたい』が『食えない』んだよ。」
「死ぬだろ」
「ああ、死ぬ。但し一時、こいつらの腹が膨れるときが在る。子を宿している時だ。その時だけ、体内は蜉蝣の卵でぎっちりと埋めつくされ、膨れる。そして、子等を産み落とした瞬間に死ぬ。」
皿の上の蜉蝣は、薄い羽を弱々しく羽ばたかせた。

「儚いな。」

そう呟いて、喉を震わせた少女は、きっと己の体を知らないのだ。

***

「儚いな。」

 ウチがそう言うと、目の前の男はまるで、無知な子供を見守る大人の様に暖かく、しかしどこか不安な表情で笑う。
「蜉蝣は自分が儚い存在だなんて知らないだろう。それが蜉蝣にとっての常識だ。」
「ふぅん・・・」
 残りの団子を茶と一緒に流し込むと、少々喉につっかえた。

「儚いものほど美しい。って、善く言ったもんだな。」
「デイダラか。」
「アイツは『儚さ』より『ド派手さ』だろ。」
 男の同僚(後輩だろう)を鮮明に想像して苦笑すると、男も薄く笑う。

「子供の為に体を歪にして、子供を産むまで、子のために、何もない体で生きて、子供を産んだら糸が切れたようにぷつん、と死ぬ。…そうだな。母親、らしいかもな。ばかばかしくて怖いだろうけど、幸いだろうな。」
 らしくもない母性愛を説くと、男の端正な顔が、気分を害した、とでも言うように歪んだ。或いは、何かに嫌悪を覚え、怯えている様子であった。

「それが幸いなのか、お前は、そう思うのか。」
「こればかりは、同じ『雌』としての思想だろうな。」

「だったらお前は、死ぬために弱い体をしているとでも言うのか。」
 そういうとイタチは、先刻と同じ顔で、ウチの首をなぞると、迅ぐに手を離した。コイツは知らない。雌の猛々しさは、時に屈強な男をも超えることを。

 

 

 

イタ多由←トビ/

「俺にしないの?」

「…はァ?」
「カレ氏だよ、俺にしときなよ!俺案外尽くすタイプだし、夜は飽きないように趣向を…むぐっ」
「妙なコト言ってんじゃねーよ!うずまき!!」

「…お前、イタチは止めろ。」
「!?」
おちゃらけた雰囲気がさぁっと消えて、冷えた言葉が多由也に聞こえた。
一瞬、空耳かと疑ったが、それはまぎれもなく自分を抱きしめている男の声。
「俺ならお前を幸せにできる。」
「…」

多由也は理解っている。自分の好き人であるイタチは、自分を幸せになんてしてはくれない、と。イタチの一番はいつだって肉親であることには変わりないのだ。何日何週間何ヶ月何年何十年待とうと決して変わりはしないだろう。決して。

「イタチ、アイツは―――」
「何をしている。トビ。」
「!」

いつの間にいたのだろう。多由也が目線を声のほうに向けると、扉の前によく見慣れた男の姿があった。
「アハ…イタチさん、任務お疲れ様です。イヤに早いけど、失敗でもしましたか?」
「……貴方にも、やって良いことと、やってはいけないことがある。」
それだけ言うと、イタチは有無を言わさず多由也をトビから離して遠ざけた。

「あの娘の体は、もう『あの娘だけの体じゃない』。…もし孰れもというのなら、俺は貴方を死んでも呪い殺します。」
「…酷いのはお前のほうだろ。」

子だけ残しておいて生きていけだなんて言うつもりか。多由也を大切にしてやれないのか、とトビは考える。
しかし『トビ』も頭では理解している。それは彼女も望んだことである、と。…だが、それでも許せなかった。

ひとりで子を産ませる?ひとりでその子を育て、ひとりで人生を歩めだと?――巫山戯た事を言えたものだな、とトビは仮面の下で軽く唇を噛んだ。

「…あーあ、オレって何で報われないんだろうなぁー!」

(一人で踊る道化が一人)

 

 

 

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