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のれんで飾られた仰々しい木製の引き戸の先に、年季を帯びた捻れ松や苔むした岩石、マメツゲやシャリンバイ等の潅木で整えられた庭園が目に入った。
物を見る目等人生で一度たりとも養われていないウチでも、一目で分かるほど格式の高そうな庭園。齢十四の小娘たる自分のアンバランスさは押して知るべし、というべきだ。
自分を此処へ連れてきた相手は、尻込みして中々その先へ足を踏み出せずにいる自分を御構い無しに、躊躇なく引き戸を跨いでその庭園へと歩を進めた。
立派な庭園もその背中も、小娘には不釣り合いだ、と見下しているような気がして――静かに踵を返す。じゃり、という乾いた石のこすれ合う音が三回程聞こえた後、おい、と自分を呼ぶ声がした。
「お前何処行く気だ。俺ァ飯食うっつったよな?」
ああ、飯食いに行こうぜと言われたのは確かだ。だけどな、ウチも一言言わせてもらおうじゃねぇかーー
「ざッけんな!少なくともこんな場所で食うなんて聞いて無ぇんだよ!!」
キッと相手を睨みつけ小声でまくしたてるが、どれだけ暴言を吐こうとも小声である所為かでいまいち締まってしない。そもそもこんな仰々しい邸の門前で喚くことすら見苦しいのだが、どうせ唯でさえこの場に不釣り合いな『汚らしいガキ』なのだ。この際、構うもんか。
ただでさえこの男ーー赤砂のサソリには自分程度の忍の威嚇は通じないというのに、サソリは通じない所か愉快そうに目を細め、口角を上げてウチの様子を眺めていた。憎らしいほど整った顔は少しも余裕を崩さない。
「オイオイ…唯の料亭だろ?」
「唯の、なワケあるか!明らかにたッかそうだろ!」
「俺が安い定食屋なんて行くとでも?煩くて敵わねぇよ」
呆れたような声でそう言い、此方へ歩み寄ってきたサソリに軽く腕を取られた後、サソリはウチの顔を怪訝な表情で覗き込んできた。
「…もしかしてお前、俺が連れに金払わせると思ってんのか?そう思ってンなら男に対する侮辱だな。オイ女将。コイツ合わせて二人だ。」
「はい、畏まりました。二名様のお部屋、ご用意致しております。此方へ」
サソリが料亭の方から出てきた女に目配せすると、女はそつのない所作で自分とサソリを誘導する。
この時の自分の脳内では、諦め悪くも未だこの状況からいかにして抜け出すかを必死に考えていたが――
「多由也。覚悟、決めろよ」
サソリのこの耳打ちには覚悟を決めざるを得なかった。
***
先程サソリは『二人で来た』と言い、女将と呼ばれていた女も確かに『二名様のお部屋』と言っていた筈だ。しかし通された部屋は、裕に十人は入るであろう程に広く、まるで大名屋敷の一角であるかのような豪華さだ。とは言え、華美なものではなく、控えめながらも一つ一つに品の感じられるのようなものだった。
横長の床の間には何処かの著名な書道家が書いたと思われる掛け軸と、一輪挿しの花瓶で飾られている。壁をほぼ一面抜き出した大窓から眺める庭園はまるで完成された風景画の様で、実に風流だ。
庭からは人工的に作られたであろう小川のせせらぎと、鹿威しの音がする
――コイツ、こういう趣向の持ち主なのか。意外だ。
ちら、と向かいに座るサソリの方に目をやれば、奴は胡座を組んで、まるで此処が自分の部屋だと言わんばかりの様子だった。緊張の様子など、微塵も感じない。
ずっとこちらを観察していたのだろうか、顔をそちらに向けた瞬間、何が楽しいのかーーニヤニヤと言う擬音が付きそうな程意地悪気な表情を浮かべるその顔に張り付いた目と、目が合った。
「…何笑ってやがる……このゲスチン….」
「あ?こんなん面白ェに決まってんだろ?クッソ生意気なガキが借りてきた猫みてぇに縮こまりやがって」
「マジでふざけんな…殺すぞ」
「ククッ…お前に俺が殺せると思うか?」
小馬鹿にしたその様子に――ああ、上等だ。殺してやる――その威勢をかみ殺す様に力を込めて口を結んだ。恐らく、今の自分の顔と言ったら嘸かし悔し気に歪んでいることだろう。
ウチが、この男に敵うわけもない。
この自分の首から繋がる鎖を掌握するーー我が主たる大蛇丸様の、かつての相方であるというこの男は、恐らく大蛇丸様と同格か、相応の実力の忍である。
大蛇丸様と同格ーーそれは好戦的な自分の牙すら簡単に折ってしまう程に絶望的で、戦意喪失するに容易い基準だった。目が合うだけで死を覚悟する程に鋭い、蛇の目の瞳孔の主人の目がちらつく。
そこまで考え、いよいよもって何故自分がこの男とこれから食事を共にしようとしているのかが恐ろしく、分からなくなってきた。
「おいーーさっきからテメー、誰の事考えてやがる」
ぞわ、と背筋が凍るほど冷たい声がした。はっとして意識を戻すと、先程の人を食った様な表情は一変し、サソリは不愉快だという感情を前面に押し出したような顔で此方を見ていた。
どうして、他の人間のことを考えてる、と悟られたのかはわからないが、そんなことは兎に角、ウチの思考回路はこの殺気を帯びた視線をどう対処するかを必死に考えていた。
「……は、ウチが何考えてても関係無ぇだろ」
「俺が不愉快だ。いいか、今は俺だけ見て俺のことだけ考えとけ」
ふぅ、とサソリが息を吐く動作をし、殺気を解いた直後、『失礼します、食前酒と先付をお持ちいたしました。』という女将の声が聞こえ、スー、と障子の引き戸が開けられた。
女将の運ぶ盆の上には柚子味噌の乗った大根が盛り付けられた小さな皿が二皿、それから酒の入ったお猪口が二つ乗っていた。
変わらず女将は優雅で迅速な動作でその皿とお猪口をウチとサソリの前におき、すぐに去ってしまった。
***
「多由也、まさか喰い切りは初めてか?それとも大根食え無ぇのか?」
女将の配膳の様子を横目で気にしていたかと思えば、まじまじと先付けを見て料理に手をつけようとしない連れに、俺は声をかけた。
「喰い切り?」
「一品ずつ料理が出てくることだ。ほら、そこに品書きあんだろ。順番に出て来んだよ。」
「ああ、それで…」
こんな少なかったんだな…と、連れはそう言いかけたであろう口を閉ざした。それを察し、喉からせり上がる笑いを抑えられなかった(抑える気も無かったのだが)俺を、連れは恨みがましげに目を細めて睨んだ。
連れ――多由也は表情も口数も少ない部類だろう。その上口を開けば顔に見合わないような汚い言葉がついて出てくる。外面と内面がちぐはぐなのはこちらとて同じなので今更どうとも思わないが、とどのつまりコイツは一般的に読み難い性格をしていた。
こちとら伊達に年を重ねているわけではないのだ。これまで培ってきた心理戦、情報戦、読心術をフルに活用し、俺は多由也の粒さな表情や感情の移り変わりを読み取ってきた。
この俺が、たかだか十五にも満たない歳の頃の小娘相手に経験を駆使し、観察し、情報を掌握し、囲い込もうとしている。今は態々、まるで高価い女をオトすように料亭に誘ってやっている。――何やってんだ、と自分でも思わざるをえない。
自分の滑稽な状況に自嘲気味に笑うと、多由也は勘違いしたらしく一層眉を吊り上げ不機嫌な顔をした。
「何笑ってやがる…気味悪ィな」
「酷い言い様じゃねぇか。んなことより、さっさと食えよ。腹減ってんだろ?」
「そんなん、お前も一緒だろうが」
一緒だろうが――その言葉に俺は少し気取られる。俺の体は普通の人体構造ではない。臓腑はおろか、血すらも通っていない…当然消化器官も、人間らしい中身を一つも持ちえていない傀儡なのだから。
コイツには、まだ教える必要はない。大蛇丸の元ツーマンセルの相方、傀儡使い、そして適当な個人的な――至って清い情報は故意的に与えたものの、ヒルコの体すら見せたことはないのだ。また今度、また今度…と先延ばしにしている間に又季節が巡ってしまった。
漸く大根に箸をつけ始めた多由也が、探るような目で俺を見ていることに気づいた。
「…何だ」
「ガラにもなく真面目な顔してやがる、と思ってな」
「別に。ホラ、俺のも食え。毒なんざ入っちゃいねぇから安心しろ。」
「ん、いいのか?」
「ああ…俺は、食わなくても良いんでな。」
「……何だ、それは…」
「俺くらい強くなると、飯は要らねェんだよ。まァ、お前はまだ食っといた方がいいぜ」
…言えるわけが無かった。
俺は人形だとバラして何になる。それを明かしたらコイツは俺をどんな目で見ることになる?…少なくとも、対等の人間とは、見てくれなくなるぜ。頭ン中でそんな声が反響する。
あァ糞、分かっている――俺はまさかこんな所で自身の体を傀儡にしたことを後悔する羽目になるとは思ってなかった、と心の中で大きなため息を吐いた。
俺が、この俺が、お前にどれだけ労力を割いてやってると思ってんだ。
何のためにあの糞蛇や、その他有象無象共の目を盗んで、網を掻い潜ってお前と会ってると思ってんだ。
お前が『この日』の夜は珍しくあの糞蛇に使われてない、っつー情報手に入れた時の俺が、どれだけ年甲斐もなく心がはしゃいだか想像できるか。
だから、どれだけこの俺が珍しく『この日』を待ったか知ってるか。
抱いてもねぇし口吸いしてもねぇ。この腕に捉えてもいねぇし――腕は掴めど、手だってまだ握ってはいない。
何だって、この俺がこんなガキ臭ぇ段取り踏んでると思ってんだ。
お前を縛る糞蛇が、憎くて、妬ましくて仕方無い。いっそ、うなじごとその呪印を削り切ってやれれば、どんなに素晴らしいことだろうか。
多由也は俺のそんな黒い思考もつゆ知らず、その言葉をいつものようにからかっているだけだと思ったのか、再び視線を大根へと戻す。
初めは慣れない料亭の雰囲気に呑まれ、緊張した面持ちでちまちまと口に運んでいたが、やがて慣れてくると味を感じ始めた様で、顔を綻ばせて(といっても傍目から見れば、ほんの微々たるものだろうが)美味そうに料理を頬張り始めた。
あまりに美味そうに食うもんだから、どんなものかと思わず手が箸を掴みそうになった程だ。ああ、これはもし舌で楽しめるのならさぞや美味いんだろうな。
その後も軽い会話をしつつ食事を楽しみ(とは言え俺の箸は女将に配膳されてから一度も使われていない。)次期に止椀だという所まで差し掛かった。
その間、『お前、酒は飲めるのか』という軽口に乗せられて多由也は食前酒に出されていたお猪口にまで口をつけた。
流石に酒の味には然程慣れていない様で、『やっぱ好きじゃない』と愚痴を零し俺の分には手をつけなかったが、借りてきた猫の様につっぱっていた肩の力はもう十分なほどほぐれた様だ。
多由也の胃袋は余り大きいものでは無いと思うが、元々少量ずつの小出しである懐石料理であることが功を奏したのか、多由也は俺の分の料理まで終始美味そうに平らげてみせた。
「多由也、俺は訳あって食事の要らねぇ体だ。序でに言えば、酒も呑まない。」
「?あ、ああ…さっき言ってたな。」
「俺はお前のその喰いっぷり、見てンのが嫌いじゃねぇ。お前は、こんな良い飯を二人分食える。」
「な、何が言いたい…?」
「俺とお前、一緒になってメリットばっかじゃねぇか、と思ってな」
「は?一緒になる?」
「……はァ、つまり、」
「失礼します。止椀をお持ち致しました。」
「…」
多由也がポカンとした顔をしているので、もっと積極的に切り込んでみようとした瞬間、タイミング良く(俺にとっては最悪のタイミングで)本日何度目かの女将の来訪が邪魔をした。
半ば八つ当たり気味に殺意は込めずに女将を軽く睨んで見るものの、女将はどこ吹く風、と言わんばかりに品のいい笑顔で俺の八つ当たりを突っ返した。
女将が手馴れた手つきで豆腐と滑子、それから三つ葉の入った赤出汁を配膳している際、庭の方から流水の音と共に雅楽が乗って聞こえた。
「あぁ…今日はですね、著名な楽団の方々にお越し頂いております。どうぞ、そちらを肴に楽しんで下さい。」
女将はそう言い残し、幾度目かの手慣れた礼をして去っていった。
「…」
俺は席を立ち、窓を閉めて先程女将が『楽しんで下さい』と前置きしていた雅楽を遮断した。
「おい、サソリ、歌が…」
「いいんだよ。多由也、こっち来てここに座れ。」
大窓の下に備え付けられた書院甲板を示し、そこに座る様に促すと多由也は戸惑いを見せながらもそこへ腰を下ろした。
「笛持ってんだろ?演奏してくれよ。」
「ーーま、待て、それなら楽団が…」
「お前の演奏が良い。」
慌てて大窓を開けようとした多由也を制し、座椅子を窓側の多由也へ向かう様に方向転換させてから、座布団へ胡座を組み直す。
恐らく楽団を気にしてかちらちら庭の方を気にしながら、多由也はぎこちない手つきで自慢の愛笛を出す。
「……まさか、テメーあの程度の楽団に引けを取ってんのか?」
「っ、は!!?んなワケねーだろ!ウチの笛の腕を舐めんなよ!」
俺の軽い挑発に乗せられて多由也は、笛を奏し始める。
書院甲板の上に座しているのは先程のぎこちない多由也でも、いつものガラの悪い小娘でもなく、妖艶に、流れる様に笛を奏でる多由也がいた。
いつもの無表情でもなく、歌に乗って頭を揺らし曲調に合わせて表情を変え、息継ぎの度に見える白い歯と小さく紅い唇にざわ、と心が揺れる。こうして見るとまるで、神聖な何かだ。
ああ、思った通り、この窓の景色と笛を奏する多由也はとても映えていた。月に照らされた情緒ある夜の庭園と、笛を奏する少女。もし俺が絵画に長けた芸術家なら直ぐさま筆とカンバスを取っていただろう。
この芸術を、もっと、近くで見ていたい。
流水音すら遮断された部屋には、澄んだ多由也の演奏だけが響き渡っていた。
***
「…失礼します。甘味を…少々早かったでしょうか。申し訳ございません。」
「……いや、構わない。悪いがこれは下げてくれ。」
「畏まりました。」
多由也の演奏に聴き入って、すっかり温くなってしまった赤出汁を下げさせ、女将に配膳を促す。
態々下げさせなくても良いのだが、店側も温くなった汁物を飲ませたいとは考えていないだろう。汁物が熱を失う程に長い演奏を終えた多由也は、女将がてきぱきとそれらを回収していく様を無表情で眺めていた。
これは勿体無い、とでも思ってやがるな。といつもの様に苦笑すると、むっとした表情で睨まれた。――ああ、何時ものお前じゃねぇか。
「お客様、綺麗でしょう?」
女将の投げかけた言葉に、心が見透かされた気がして思わず女将の顔を凝視した。
「自慢の庭園です。この庭園を目当てに贔屓にして下さるお客様も多いんですよ。」
――なんだ、庭園のことか。
「では、甘味は冷めることは御座いませんので。ご遠慮なく『其方で』お話をなさって下さい…ふふ……では、失礼します。」
女将の口が弧を描き、一層品のいい微笑みと共に引き戸が閉められる。
――クソ、あの女将、理解って言ってやがったな…
女将の去った部屋には、机の上に置かれた南高梅のゼリーと、書院甲板に腰掛ける男女が残されていた。
気まずい空気の中、多由也は口を開く。
「…取り敢えず、席に戻ろうぜ。」
***
「サソリ、今度はお前の操演に合わせて演奏してみたい。…良い曲、思い浮かびそうなんだ。……いいか?」
「何だお前…ああ、酒、飲んだもんな。酔ってんのか?」
多由也が甘味を食べ終え(無論、多由也自身の分とサソリの二人分だ)女将が来るまでの時間を潰していると、多由也は真剣な面持ちでサソリにそう尋ねた。サソリは珍しく毒のない、その真っ白な言葉に驚いた様な目で多由也の顔を覗き込んだ後、いつもの様な小馬鹿にした様な笑いを顔に貼り付ける。
「そう、かもしれねぇな。そういうことにしといてくれ」
「ああ。俺も今日は、珍しく、機嫌が良いからな。考えて置いてやるよ。」
サソリはそうだな、と前置きし、少し考えた様なそぶりを見せ、テーブル越しに身を乗り出し、耳打ちする。
「じゃあ、それは『お前の』生まれた日に合わせてやる。」
多由也は目を見開き、驚いた後にサソリに習う様に耳打ちする
「ああ。今日は誕生日おめでとう。赤砂のサソリ。」
サソリにとって、その日は何時も繰り返される日々と変わりはなかった。
毎年無駄に歳を重ねるだけの至極無駄な日。幼少期はどうであったか、もう爛れ、風化してしまったが――三十何回と繰り返されたその日を嬉しむ者の気持ちが理解できなかった。
だから、サソリは多由也に『至極個人的な情報』を伝えた。
多由也もサソリと同じく、誕生日というものこそ有難いものとして受け取っていなかったが、親しいものを祝い、祝われることのむず痒さと嬉しさは、十何年という若い生涯の中でまだ風化するに至っていなかった。
時折軽口は叩かれるものの、手放しに笛を褒め、自己を評価してくれる――そもそも力を貪欲に求め、技量を磨くための努力を惜しまない多由也は、強者としても、芸に対して直向きなその姿勢の点でもサソリを尊敬している。サソリは生誕を祝うのに容易い相手でもあった。
今年のその日のサソリは、とても機嫌が良かった。
意中の相手を抱いてもいないし、キスもしていない。その腕に閉じ込めてもいない。手だって握っていない。
それでも彼は、彼女と長く共に時間を過ごすことができ、彼女の演奏を楽しめた。
おまけに、次の彼女の誕生日の予定まで確保できた。それだけで、普段仲間内から気が短い、血も涙もないと称されている彼の心は浮き足立ってしまうのだ。
本当、馬鹿みてぇだ。アカデミーのガキでももっと貪欲じゃねぇのか。
サソリは苦笑をしつつ、女将のお愛想を一瞥し、勘定盆に少し多めに紙幣を添える。釣りは要らない、チップだと口添えすると、女将は行儀よく頭を垂れる。多由也はその束の紙幣を見、此処へ来たばかりの時と同じ様に目を白黒させた。
サソリは固まっている多由也の手を引き、帰りを促すと、多由也は我に返りどういうつもりだ、とわなわなと震える声を発した。
「そうだな、言っちまえば投資だ。気にすんな。」
腑に落ちない、何を企んでいる――と言う様相で頭に疑問符を浮かべている多由也と、機嫌よさげに料亭を出るサソリの背中を女将は若いって良いわね、と微笑みながら見送っていた。
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移転に伴い修正(1・13)